はじめに:支援員の現場には「匂いのストレス」がある
支援員として働く中で、思わず「うわっ、くさっ」と感じたことはありませんか?
これは決して珍しいことではありません。特に食後の歯磨き支援の場面では、誰もが一度は経験する「あるある」だと思います。
食事後の歯磨きは、利用者さんの健康維持に欠かせない大切な習慣です。
ですが、実際の現場では「口を開けてもらえない」「うまくすすげない」「前歯しか磨かせてくれない」など、なかなか完璧にはいきません。結果として、どうしても口臭が残ってしまうこともあります。
このような状況は、支援員にとっても小さなストレスの一つ。
そんな時に、私は**アロマオイル(精油)**を活用しています。
歯磨きを嫌がる利用者さんとの出会い
ショートステイに来られたRさんという女性。
身の回りのことは自立されており、私たちは見守る程度の支援でした。
歯磨きセットもご自身で持参されていましたが、いざ歯磨きの様子を見ると——
前歯だけを軽くシャッシャッと磨いて、すぐに口をすすいで終わり。
「いやいや、それでは磨けていないよ〜」と心の中でツッコミを入れつつ、「お手伝いしましょうか」と声をかけても、拒否されてしまいました。
初めての利用ということもあり、無理に関わるのは控えてその日は終了。
ですが翌朝、掃除に入ると……。
部屋のドアを開けた瞬間、強烈な匂いが鼻をつきました。
マスクをしていても思わず「くさっ」と声が出るほど。
慌てて窓を開け、換気をしたのを今でも覚えています。
「匂い問題」にどう向き合うか
福祉の現場では、体臭・口臭・便臭など「匂い」に関する問題は避けて通れません。
しかし、利用者さんの尊厳に配慮しながらどう対応するかがとても難しいのです。
「くさい」と言ってしまうのは失礼ですが、現場で働く私たちも人間です。
不快に感じるものを我慢し続けると、感情的な疲労やストレスの原因にもなります。
私が目指しているのは、
「利用者さんにとっても、支援員にとっても心地よい空間づくり」
そのために取り入れたのが、アロマオイルでした。
ラベンダーのアロマで空間ケア
Rさんがショートステイに慣れてきた頃、再び私の夜勤の日に利用されることになりました。
夕方、Rさんの部屋に入って寝具を整えようとした瞬間——またあの独特の匂いが。
「これはちょっとしんどいな…」と思い、私はロッカーからお気に入りのラベンダーの精油を取り出しました。
スプレーボトルに水とアロマオイルを数滴加え、部屋中にシュッシュッとスプレー。
カーテン、枕元、そしてベッド下には、アロマを垂らした布を置きました。
その夜、21時の消灯前にRさんをトイレに誘導し、部屋へ戻ってもらうと——
ドアを開けた瞬間、ラベンダーの穏やかな香りが広がりました。
Rさんも「なんかいい匂いするなぁ」と笑顔。
「よく眠れるように、ラベンダーを使いました」と伝えると、
「へぇ〜」と照れくさそうに笑いながらベッドに入りました。
その夜、Rさんはぐっすり眠られていました。
翌朝の表情も穏やかで、スタッフ同士で「昨夜はよく眠れたみたいだね」と話したほどです。
ラベンダーがもたらす効果
ラベンダーの精油は、アロマテラピーの中でも代表的な香り。
その特徴は、自律神経を整え、心身をリラックスさせる作用です。
嗅覚は五感の中でも唯一、脳の情動を司る部分(大脳辺縁系)に直接働きかけると言われています。
つまり、「いい香りだな」と感じた瞬間に、心と体が自然と落ち着いていくのです。
アロマは薬ではありませんが、
・寝つきが悪い利用者さん
・夜中に不安になってナースコールを押す方
・入浴を嫌がる方
などにも、さりげなく取り入れることでサポートにつながることがあります。
🌙こんな時にもアロマが役立った!
眠れない利用者さんへの“やさしいヘッドマッサージ”
アロマオイルを活用していて、もうひとつ印象に残っている出来事があります。
それは、なかなか寝つけない利用者さんへの夜間支援のときのことです。
その方は60代の女性で、日中はとても穏やかに過ごされていますが、
夜になると不安が強くなり、何度もナースコールを押されたり、
「眠れない」「心臓がドキドキする」とおっしゃることがよくありました。
看護師の判断で体調には問題がなく、私たち支援員としては「どう安心してもらうか」が課題でした。
やさしい香りとタッチングで安心感を
その夜も同じように落ち着かれない様子で、
「眠れない」と言われたので、
「じゃあ、ちょっとだけマッサージしましょうか?」と声をかけました。
私は普段からポケットにラベンダーとスイートオレンジをブレンドした小瓶を持っています。
ティッシュに1滴垂らして、手のひらで温めながら、ゆっくりとその香りを広げていきます。
「いい匂い…」
そう言ってくださったので、そのままベッドサイドで軽くヘッドマッサージを行いました。
髪をなでるように、頭皮を包み込むように、ゆっくりと円を描くように。
ラベンダーの香りがふんわりと広がる中で、
その方の呼吸がだんだん深く、穏やかになっていくのが分かりました。
数分後には、目を閉じて静かに眠りにつかれました。
“触れる支援”と“香る支援”の相乗効果
この体験を通して感じたのは、
香りの力と、“触れること”の安心感が合わさると、
人の心がふっと落ち着くということです。
介護・支援の現場では、声かけ・環境整備・見守りなどさまざまな支援がありますが、
「香り」や「手の温もり」といった感覚的な支援も、とても大きな意味を持っています。
また、夜間に不安を感じやすい方や認知症の方には、
ラベンダーやオレンジ・ゼラニウムなどの香りが効果的だと感じています。
これらはリラックスを促し、心拍や呼吸を安定させる働きがあるといわれています。
無理のない範囲でできる“香りのケア”
アロマを使ったヘッドマッサージといっても、特別な道具は必要ありません。
・ティッシュに1滴垂らした香りを手に移して使う
・市販のキャリアオイル(ホホバオイルなど)を少し混ぜて行う
これだけで十分。
大切なのは「眠ってもらおう」とすることではなく、
“安心して休める時間を一緒に過ごす”という気持ちです。
「今日もありがとう」「おやすみなさい」と声をかけながら、
心を込めてほんの数分だけマッサージをする。
それだけで、利用者さんの表情が柔らかくなり、
その夜はぐっすりと眠られることが多いのです。
支援員としての「工夫力」が大切
支援の仕事では、「マニュアル通り」ではうまくいかないことが多くあります。
歯磨きひとつにしても、その人のペースや習慣、こだわりがあります。
それを理解し、寄り添いながら工夫を重ねていくことこそ、支援員の腕の見せどころです。
アロマオイルを使うことも、その一つの手段。
「ちょっとした工夫」で、空間の雰囲気も人の気持ちも変わるのです。
現場でアロマを使うときの注意点
もちろん、アロマオイルを使用する際には安全面への配慮が欠かせません。
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香りが苦手な方がいないか確認する
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精油は直接肌につけず、スプレーや布に少量使用する
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火気や換気に注意する
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香りを強くしすぎない(軽く香る程度がベスト)
こうした基本を守れば、安心して取り入れられます。
最近では、無香タイプの消臭剤やアロマディフューザーを併用する施設も増えています。
香りがつなぐ「安心のケア」
私はアロマを使い始めてから、「香り」もまた支援の一部だと感じるようになりました。
利用者さんにとって心地よい香りは、安心感やリラックスにつながり、
支援員にとってもストレス軽減になります。
香りを通して「穏やかな時間」が生まれたとき、
人と人との距離が少し近づいたように感じます。
まとめ|支援員のちょっとした工夫が、暮らしをやさしく変える
支援員の仕事は、毎日が試行錯誤の連続です。
決して派手ではありませんが、利用者さんの笑顔や穏やかな眠りに出会えたとき、
「やってよかった」と心から思えます。
アロマオイルを使うことも、その一つの小さな工夫。
匂いのストレスを軽減し、利用者さんにも心地よさを感じていただける——
そんな支援の形が、これからもっと広がっていけばいいなと思います。
🌿あとがき:支援員のセルフケアとしてのアロマ
実は、私自身も夜勤明けや緊張が続いた日のリフレッシュに、
同じラベンダーの香りやフランキンセンスを使っています。
香りを嗅ぐだけで、気持ちがふっと落ち着くから不思議です。
利用者さんのケアに使う前に、まず自分のケアにも。
支援員自身が心穏やかであることが、良い支援の第一歩だと感じています。


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