現場のモヤっと|支援員が直面する「他害行為」と心の葛藤

支援員の仕事と日常

知的障害のある方への支援の現場では、想像を超えるような出来事に出会うことがあります。
その中でも、支援員を悩ませるのが「他害行為」と呼ばれる行動です。


他害行為とは?

「他害」とは、他人に対して叩く・つねる・噛む・物を投げるといった攻撃的な行為を指します。
対象は支援員や家族だけではなく、時にはすれ違った一般の方に向けられることもあります。

強度行動障害を持つ方の中には、感情のコントロールが難しい場合や、刺激への反応が過敏な方もおり、支援員は常に緊張感を持って向き合っています。


初めての「他害」体験

見た目は長身でイケメンの利用者Mさん。
勤務して間もない頃、彼は私の髪に唾を吐きかけては笑いながら走り去っていきました。
理由はわかりませんが、同僚からは「関心がある証拠かも」と言われました。

そう言われても、正直なところ気持ちの良いものではありません。
何度注意してもやめないため、私は「逃げるか」「先に動いて彼を避ける」しかありませんでした。
支援とは何か、自分の立ち位置を考えさせられた瞬間です。


精神障害のある利用者さんとの出来事

夜勤明けの朝、なかなか起きてこないAさんを男性職員が起こしに行くと、「いきなり殴られた」と報告が。
驚きながら私が食堂に入った瞬間、私もおでこにパンチを受けました。

それほど強い力ではなかったものの、初めての衝撃でした。
Aさんは以前、精神科病院に入院していたとのこと。
環境の変化に不安を感じていたのかもしれません。

その日の夕食時、薬を渡した際に「病院に行くことになるよ」と伝えた瞬間、彼は激しく反応し、食器を投げつけました。
どうやら「病院」という言葉が彼にとってトラウマだったようです。
職員や他の利用者の安全を確保しながら、言葉選びの難しさを痛感しました。


野生児のようなT君との日々

T君はハーフの青年で、活発というよりも“野生的”と表現したほうが近いかもしれません。
突然人の背中を引っかいたり、メガネを取り投げたりと、予測不能な行動を取ることがありました。

ある日、老眼鏡を壊されましたが、100円均一のものだったので「まあいいか」と笑って済ませました。
しかし、首を引っ掻かれて出血したり、眉間に傷が残ったりしたことも。
男性職員がつきっきりで支援しても、ちょっとした油断が命取りになることがあります。

それでも翌朝「おはよう」と声をかけることから一日が始まる――
支援員の心の切り替え力が試される毎日です。


思い切り噛まれた出来事

ショートステイで利用された盲目の男性。
「噛むことがある」と聞いていましたが、まさか自分がその対象になるとは思いませんでした。

歩行介助の最中、彼が突然私の肩に噛みついたのです。
「痛い!」と叫んで離れましたが、服の上からでも歯形がくっきり。
冷やしても痛みが長く残り、跡は半年以上も消えませんでした。

別の職員も噛まれて腕が赤く腫れ上がることがありました。
感染症のリスクもあるため、病院で受診するケースもあります。
それほど「他害行為」は、支援員にとって命を守るレベルのリスクを伴うのです。


労災も申請されにくい「グレーゾーン」

こうした出来事は仕事中に起こる「労働災害」に該当します。
しかし実際には、骨折などの重症でない限り、労災申請する職員はほとんどいません。

人手不足や職場の雰囲気もあり、「自分でなんとかするしかない」というのが現実です。
職員の安全よりも、「利用者さんの安全を最優先に」という風潮が強いのです。


支援員として思うこと

親御さんにとって、施設は「安心して預けられる場所」でなければなりません。
それは当然のことです。
ですが、その安心を守るために、現場の支援員が傷ついていることも事実です。

支援の現場に「安全な働く環境」が整うこと。
それが、支援の質を高め、利用者さんの笑顔にもつながる――
私はそう信じています。


まとめ|「支援員のモヤっと」を社会に届けたい

支援員という仕事は、きれいごとでは続けられません。
でも、現場で見えるのは「人の生きる力」や「関わることで変わる日常」です。

時に傷つき、悩み、それでも笑顔で「おはよう」と言う。
その一瞬の積み重ねこそが、支援の本質なのかもしれません。


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