初めて夜勤に入る前は、誰もが少なからず緊張と不安を抱くものです。
私も例外ではありませんでした。勤務を始めて1カ月半ほど経ったある週末、ついに夜勤の担当に入りました。
それは、支援員として初めて一晩を通して利用者さんと向き合う機会。
「無事に終えられるだろうか」「自分にできるだろうか」――そんな思いを胸に夜を迎えました。
勤務先は、知的障害のある方々が生活する入所支援施設です。
日中の活動とは違い、夜勤では少人数の職員で利用者さんの生活を見守り、体調や行動の変化に細やかに対応しなければなりません。
この経験を通して私は、支援員という仕事の責任の重さと、支援の奥深さを実感しました。
この記事では、初めての夜勤で体験した出来事や学びを振り返りながら、
「支援の現場で大切にすべきこと」を等身大の言葉でお伝えします。
夜勤のはじまり ― 不安と期待の入り混じる夜
夜勤の勤務時間は午後1時から翌朝9時まで。
正職員の先輩に同行しながら、夜勤専従のパート職員(女性3名・男性3名)とともに一晩を担当します。
普段よりショートステイの利用者も多く、施設全体がにぎやかな週末。
「うまくできるだろうか」という不安と、「現場を学べる」という期待が入り混じっていました。
夜勤業務の流れと仕事内容
夜勤と聞くと「見回りと記録だけ」と思われがちですが、実際には多岐にわたります。
利用者さんが安心して夜を過ごせるよう、支援員は多くの業務をこなしています。
- 日中活動後の身支度支援
- おやつ・水分補給の介助
- 入浴準備と入浴支援
- 夕食支援・服薬管理
- 歯磨きや就寝準備のサポート
- 居室清掃・洗濯
- 夜間巡回・トイレ誘導
- 記録記入・備品補充
- 早朝の着替え・朝食支援
「夜は利用者さんが眠っていて静か」と思われるかもしれませんが、実際にはそうはいきません。
記録、巡回、突発的な対応などが続き、時間が過ぎるのはあっという間です。
知的障害者支援施設での夜勤環境
私が勤務しているのは、知的障害のある方が生活する入所施設です。
性別ごとに職員が配置され、男性利用者には男性職員、女性利用者には女性職員が支援を行います。
居室は個室ではなく、3〜4人が同じ部屋を共有するスタイル。
支援員も居室近くで待機し、いつでも対応できる体制が整っています。
その夜の女性利用者は次の通りでした:
- 短期入所者:4名
- ショートステイ利用者:2名
私は2号室(短期入所2名+ショート1名)を担当することに。
夜勤初日の私にとって、全てが新鮮で少し怖くもある環境でした。
出会い ― 言葉の通じないAさんとの夜
2号室にはAさん(20代前半)がいました。
Aさんは聴覚障害と重度の知的障害を併せ持ち、言葉を発することができません。
そのため、施設では絵カードや写真を使った視覚支援が取り入れられています。
お茶の写真やトイレの絵を指差して意思を伝えるAさん。
ただし、排泄コントロールが難しく、見守りが欠かせません。
日中から穏やかに過ごしていたため、私は「このまま無事に夜を迎えられたら…」と祈るような気持ちでした。
夜勤中のトラブル ― 予期せぬ行動への対応
入浴・夕食支援を終え、眠剤の服薬も済ませ、就寝準備を整えました。
ようやく落ち着いたと思った矢先、巡回中に異変に気づきます。
Aさんが居室で排泄後、手で触れてしまう行動を取っていたのです。
動揺しながらも、先輩職員と協力して迅速に対応。
手洗い・着替え・リネン交換・清掃・消毒を丁寧に行い、Aさんが安心できるよう穏やかに声をかけました。
現場では「排泄後に触ってしまう行動」は珍しくなく、障害特性による感覚刺激の一つとして理解されています。
事前に注意を受けていたものの、実際に目の当たりにすると、
“支援とは予測不能な行動を受け止める力”だと痛感しました。
眠らない夜 ― 輪ゴムと笑い声と見守り
その後、Aさんは眠ることなく、突然立ち上がってフロアを歩き出しました。
頭を揺らしながら笑い、体を激しく動かす姿。
焦る私に、先輩は「落ち着くまで見守ろう」と穏やかに助言します。
しばらくして、Aさんは輪ゴム遊びに夢中になりました。
無理に寝かせようとすると拒否が強くなるため、納得するまで見守ることに。
しばらくして別の利用者Bさんが居室から出てきて、笑いながら廊下をゆっくりと歩き回ります。
徘徊ではありますが、攻撃的ではなく、安心できる範囲での見守りを続けました。
午前2時、ようやくAさんがソファで横になり、背中をさすると静かに眠りにつきました。
時計を見て、私もようやく胸を撫で下ろしました。
初夜勤で学んだこと
この夜はまさに予測不能の連続でした。
- 排泄後の行動への対応
- 深夜の行動支援
- こだわり(輪ゴム)への理解
- 徘徊行動への柔軟な見守り
新人の私にとっては大きな試練でしたが、同時に支援員として成長できる機会でもありました。
知的障害者支援の現場では、マニュアル通りにいかない出来事が日常的に起こります。
けれど、その一つひとつが“対応力”という支援の引き出しを増やしてくれるのです。
まとめ ― 支援員という仕事のやりがい
初めての夜勤は、戸惑いと驚き、そして多くの学びに満ちていました。
「利用者さんの行動を理解し、どう支えるか」を考える時間の中で、
私はこの仕事の深さとやりがいを強く感じました。
ちなみに、Aさんはその後7年間の支援を通して、大きく成長されました。
絵カードを使って意思を伝える頻度が増え、笑顔も多くなりました。
支援を続けることで、人の生活は確実に変わっていく――
それを実感させてくれた夜でもあります。
※この記事は、特定の個人を描写・批判するものではなく、支援の現場で学んだ一つの実例として記しています。
障害特性や背景を理解し、丁寧に関わることの大切さを改めて感じた夜勤体験でした。


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