支援員のメンタルヘルス|ストレス要因とセルフケアの工夫

支援員のメンタルヘルス

支援員に限らず、どんな職場でも少なからずストレスを抱えることはあると思います。
私自身も支援員になりたての頃、利用者さんとの関わりがうまくいかず「この仕事は私に向いているのかな?」と悩んだことがありました。

利用者さんのこだわりや同じことを繰り返す姿に内心イライラしたり、精神障害を抱える方の大きな声に「もう勘弁して」と思ったり…。強度行動障害のある利用者さんから突然殴られたり、眼鏡を壊されたこともありました。「怪我までして働く意味があるのだろうか?」と自問したこともあります。

それでも続けてこられたのは、やりがいがあるからです。少しずつ利用者さんと心を通わせられるようになり、信頼され、笑顔を向けてもらえると、この仕事が楽しいと思えるようになりました。

一方で、しんどさの原因は利用者さんとの関係だけではありません。同僚との人間関係が負担になることもあります。支援員はやりがいが大きい反面、心身に負担がかかりやすい仕事です。そこで今回は「支援員のメンタルヘルス」について整理してみます。

支援員の仕事はやりがいのある一方で、心身に大きな負担がかかることも少なくありません。ここでは代表的なストレス要因を、具体的な場面を交えて紹介します。

支援員が抱えやすいストレス要因

身体的負担

支援員は日常的に利用者さんの生活をサポートします。入浴介助で体を支えたり、車椅子からベッドへの移乗を手伝ったりと、身体に負担のかかる動作が多いのが特徴です。特に腰や肩を痛めやすく、慢性的な腰痛に悩む職員は少なくありません。長時間の立ち仕事や夜勤による生活リズムの乱れも、体の疲労を蓄積させます。

感情的負担

利用者さんの中には、強度行動障害を持つ方や、突発的に大声を出したり物を投げたりする方もいます。そうした場面では「次に何が起こるかわからない」という緊張感が常に付きまといます。穏やかに対応したくても、予期せぬ行動が続くと心が追いつかず、強いストレスを感じやすくなります。

人間関係

ストレスの原因は利用者さんとの関わりだけではありません。支援員同士で意見が食い違ったり、業務の進め方をめぐって衝突したりすることもあります。また、利用者さんのご家族から「もっとこうしてほしい」と要望を受け、板挟みになることも少なくありません。こうした人間関係の摩擦は、心を大きく消耗させる要因になります。

制度・環境的要因

福祉現場では慢性的な人手不足が課題です。そのため、一人ひとりの負担が増えがちで、夜勤や不規則なシフトが続くこともあります。「寝たいのに眠れない」「生活のリズムが整わない」といった状況は、体調だけでなく精神面にも影響を及ぼします。十分な休養がとれず、ストレスが積み重なっていくのです。

責任感の重さ

支援員の仕事は、利用者さんの生活や命に直結しています。服薬を間違えないこと、転倒を防ぐこと、緊急時に正しく対応することなど、常に大きな責任を背負って働いています。特に新人のうちは「自分の判断一つで大変なことになってしまうかもしれない」というプレッシャーを強く感じる人も多いです。責任感がやりがいにつながる一方で、強いストレスの原因にもなるのです。

よく見られるメンタル不調のサイン

  • 支援員の仕事は日々の負担が積み重なりやすく、気づかないうちに心や体が悲鳴をあげていることがあります。ここでは、よく見られるサインを具体的に紹介します。疲れがとれない・朝起きられない「たっぷり寝たはずなのに体が重い」「アラームを止めても布団から出られない」という状態が続くのは要注意です。休日もずっと寝てしまい、起きても疲労感が残っている場合、心身が限界に近づいているサインかもしれません。

    集中力や判断力の低下

    普段ならすぐに対応できることに時間がかかったり、同じミスを繰り返してしまったりすることがあります。例えば、支援記録の入力で誤字が増えたり、利用者さんの薬の準備を忘れてしまったり。「ちょっとしたことなのに間違える」自分にさらに落ち込み、悪循環に陥ることも少なくありません。

    イライラや怒りっぽさの増加

    以前は気にならなかった利用者さんのこだわりや、同僚からの何気ない一言に過敏に反応してしまうことがあります。「もういい加減にしてよ!」と心の中で何度も繰り返してしまう。感情のコントロールが難しくなってきたときは、心が疲れている証拠です。

    仕事に対する意欲の低下

    「今日は仕事に行きたくない」「とにかくシフトを終えることだけ考えている」と感じる日が増えてきたら要注意です。やりがいを感じていた業務にも興味が持てなくなり、ただこなすだけになってしまうと、モチベーションがどんどん下がってしまいます。

    身体症状(頭痛、胃痛、動悸、過食・拒食など)

    心の不調は体に表れることがよくあります。

    • 頭痛や肩こりが慢性化する
    • 胃が重く、食欲がわかない
    • 突然ドキドキして不安に襲われる
    • 逆にストレスで食べすぎてしまう

    こうした症状は「ただの疲れ」と見過ごされがちですが、メンタル不調のサインである場合も多いのです。

メンタルヘルスを守るための工夫

職場でできること

  • チームでの支援支援員の仕事は、どうしても「自分でなんとかしなければ」という気持ちになりがちです。
    しかし一人で全てを抱え込むと、心身ともに疲弊してしまいます。例えば、強度行動障害のある利用者さんに対応する際も「この行動が出たら誰に応援を頼むか」「こういうときは2人で対応する」と事前に共有しておくだけで、安心感が違います。実際、私の職場では「困ったときはすぐ声をかけ合う」というルールを作ってから、現場の雰囲気がぐっと和らぎました。
  • スーパービジョンやカンファレンス日々の業務に追われると「うまくいかなかった場面」を一人で抱えてしまうことがあります。そんな時、定期的なカンファレンスで「実はこういう時どうしたらいいか悩んでいて…」と打ち明けると、同僚から思いもよらないアドバイスをもらえることがあります。失敗談や困りごとを「共有できる場」があること自体が、心の支えになります。
  • 休暇の確保支援員は人手不足で休みにくい職場も多いですが、それでも休むことは非常に大切です。私自身、連休を利用して実家に帰り、家族と一緒に過ごしただけで気持ちがリセットされた経験があります。「人に迷惑をかけたら…」と思うかもしれませんが、休まないことで逆に大きなミスをしてしまう方が職場全体の負担になります。
  • 業務の標準化同じ利用者さんでも、職員によって対応がバラバラだと混乱やトラブルにつながります。例えば「食事の際は最初に水を渡す」「薬は必ず声をかけてから飲んでもらう」といった小さなことでも、記録に残しておくことで全員が統一できます。対応が安定すると利用者さんも落ち着き、職員の負担も軽減されます。

個人でできるセルフケア

  • 睡眠夜勤明けは「眠らなきゃ」と焦るあまり、余計に眠れなくなることがあります。そんなときは、遮光カーテンや耳栓を使って環境を整えると効果的です。私の同僚は「眠れないときは無理に布団に入らず、軽くストレッチしてから横になる」と言っていて、実際その方がぐっすり眠れるそうです。
  • 食事
    夜勤が続くと、ついパンやおにぎりだけで済ませてしまうことがあります。でも、コンビニでも「サラダチキン+野菜スープ+おにぎり」と選ぶだけで栄養バランスはかなり変わります。実際、疲れにくくなったという声も多いです。
  •  運動立ち仕事が多い支援員は腰痛を抱えやすい職業です。毎日数分でも「背伸び・前屈・腰ひねり」といったストレッチを取り入れると、驚くほど違います。私自身、腰を痛めてからは朝起きた時に必ず軽く体を動かすようにし、仕事後の疲れも和らぐようになりました。

ストレス発散・プライベートの充実

  • 趣味の時間を大切にする私の知り合いは「夜勤明けは必ずカフェでお気に入りのコーヒーを飲む」と決めているそうです。小さなことでも「自分だけの楽しみ」を持つことは大切です。絵を描く、映画を見る、推し活をするなど、支援の仕事と関係のない時間が心の回復につながります。
  • 自然とのふれあい仕事終わりに近所を10分散歩するだけでも気分が落ち着きます。ガーデニングや観葉植物のお世話も、自然と向き合う時間が癒しになります。忙しい人ほど、自然の力を借りることが効果的です。
  •  デジタルデトックス休日に「気づけば一日中スマホ」ということはありませんか? 1時間だけでもスマホを置いて本を読んだり料理をしたりするだけで、頭の中が整理されます。SNSの情報から距離を置くと、心がずっと軽く感じられます。

気持ちをリセットする習慣

  • マインドフルネスや呼吸法利用者さんの対応で気持ちが乱れたとき、深呼吸を3回するだけで落ち着けることがあります。私の同僚は「トイレに行ったら必ず深呼吸する」と決めており、それが小さなリセットの習慣になっているそうです。
  •  書き出す習慣モヤモヤを頭の中で抱え込むとどんどん膨らみます。紙に「今日しんどかったこと」を書き出すだけで、気持ちが軽くなります。私は手帳の隅に短く書くようにしていますが、不思議と「まあ大したことないか」と思えることも多いです。
  •  通勤の工夫満員電車で憂鬱になる人も多いですが、音楽やポッドキャストを聴くと気持ちが切り替わります。自転車通勤の人は「運動と気分転換が同時にできる」とよく話しています。

感情のセルフケア

  • 境界線を意識する「利用者さんが怒ったのは自分のせいだ」と思い込むと、心がつぶれてしまいます。大切なのは「その人の行動は、その人の背景や障害特性によるもの」と線を引くこと。自分を責めすぎない意識が必要です。
  •  小さな達成を喜ぶ「今日はあの利用者さんが笑顔を見せてくれた」など、ほんの小さな出来事でもいいのです。一日の終わりに一つだけ思い出すと、達成感が積み重なり、やる気の源になります。
  •  愚痴を吐ける相手を持つ職場外の友人や家族に「今日、こんなことがあってさ」と話すだけで気持ちが軽くなります。安心して愚痴を言える場所は、ストレス解消に欠かせません。

外部の支援を活用する

  • 産業医・EAP(従業員支援プログラム)職場に産業医やEAP(従業員支援プログラム)が設置されている場合は、積極的に活用することをおすすめします。
    EAPでは、仕事に関する悩みだけでなく、家庭のことや生活習慣に関する相談も受けてくれる場合があります。専門のカウンセラーが対応してくれるため、気持ちを整理したり、自分では気づかなかったストレス要因を客観的に把握できたりするのが大きなメリットです。
  •  自治体や福祉関係団体が設けるカウンセリング窓口多くの自治体や福祉団体では、福祉従事者や介護職員向けに電話や対面での相談窓口を設けています。匿名で利用できるケースもあり、「職場の人に知られたくない」という方にとっても安心です。自分の地域の相談先を調べておくと、「つらいときはここに頼れる」という安心感につながります。
  •  専門医療機関(不調が続くときは早めの受診が大切)「疲れがとれない」「気分の落ち込みが続く」といった症状が長引く場合は、我慢せずに医療機関を受診しましょう。心療内科や精神科と聞くとハードルを感じるかもしれませんが、身体の病気と同じように、早めに専門家に相談することで回復が早まることも多いです。特に、睡眠障害や食欲の乱れが続く場合には、できるだけ早めに専門医の力を借りることが大切です。

    まとめ|自分を大切にすることが、利用者を大切にすることにつながる

支援員の仕事は、誰かの生活を支えるやりがいのある仕事です。しかし同時に、身体的にも心理的にも負担がかかりやすく、ストレスから完全に逃れることは難しいのも現実です。

だからこそ、セルフケアや仲間との協力、外部の支援をうまく取り入れて「無理をしすぎないこと」が大切になります。
自分を整えることはわがままではなく、利用者さんに安心を届けるための“土台づくり”です。

「自分を大切にすることが、利用者さんを大切にすることにつながる」――その意識を持ちながら働くことで、支援の現場はもっと温かく、安心できる場所になっていくはずです。

小さな工夫を重ねながら、心身の健康を守りつつ、支援員というやりがいある仕事を長く続けていきましょう。

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