数年かけて実った小さな一歩|大人になってからの取り組んだ排泄支援の記録

支援の工夫とアイデア集

― 大人になってからでも、少しずつ変化は積み重なっていく ―

今回は、数年という長い時間をかけて向き合ってきた支援の中で、
少しずつ形になっていった「小さな一歩」についてお話しします。

以前、「初めての夜勤」という記事の中でも触れたことのある、
ある女性利用者さんがいます。この記事では、仮にAさんと呼ばせていただきます。

「トイレの習慣は、子どもの頃に身につけておかないと難しいのでは」
そう感じている方も、少なくないかもしれません。
実際、支援員として働き始めた頃の私自身も、同じように考えていました。

けれど、Aさんとの関わりを重ねていく中で、
その考えは少しずつ、静かに変わっていきました。

「大人になったら難しい」と感じていたトイレの習慣づくり

Aさんは現在28歳で、18歳のときにロングステイ利用者としてこの施設に入所されました。

お母さまはAさんが幼い頃に病気で亡くなられ、その後はお父さまがお一人でAさんを育ててこられたそうです。

仕事をしながら、障害のあるお子さんを育てることは、
日々の生活を維持するだけでも大きな負担があったのではないかと想像されます。

排泄の習慣づくりや生活リズムの定着まで十分に手が回らなかったとしても、
それは決して責められることではなく、その時々で精一杯向き合ってこられた結果なのだと思います。

入所当初に見られていた、Aさんの排泄に関する困りごと

入所当初のAさんには、**「排尿・排便の際にトイレへ行く」**という習慣が、まだ定着していない状態でした。

リハビリパンツを着用していたため排泄自体は可能でしたが、状況の判断が難しく、場所を選ばずに衣服を下ろしてしまう様子が見られることがありました。

また、水分摂取量が多いことから失禁量が増え、不快感によってパットを外してしまうこともありました。

排便後に便に触れてしまう行為が見られることもあり、Aさんご本人の衛生面への配慮に加えて、他の利用者さんへの影響についても慎重に考える必要がありました。

フロアには男性利用者さんもおられるため、環境やタイミングに配慮しながら支援を行うことは、簡単なことではありませんでした。

 

言葉でのやり取りが難しい中で、伝え方を考える

Aさんは耳が聞こえず、言葉によるコミュニケーションが難しい状況にありました。
こちらからの声かけに反応することはほとんどなく、
「どう伝えるか」という点が、支援の中で大きな課題となっていました。

それでも私たちは、
「伝わらないから仕方がない」
「難しいから諦める」
という考え方を、できるだけ選ばないようにしていました。

声が届きにくいのであれば、
別の形で伝える方法を探していく。
そうした思いから、少しずつ試行錯誤を重ねていくことになりました。

視覚支援を中心とした工夫と試行錯誤

視覚的な情報のほうが受け取りやすいAさんに対して、
言葉以外の方法で気持ちや行動を伝えられないかと考え、
視覚支援を中心とした関わりを少しずつ取り入れていきました。

トイレ誘導や意思表示の際に使用していた、視覚的な支援ツールの一例です。

トイレへの誘導を「見て分かる合図」にする工夫

最初に取り入れたのは、視覚的に分かりやすい合図を使った関わり方でした。

トイレへ誘導する際には、
リハビリパンツやパットをAさんの目に入る位置で見せ、
「トイレに行く」「交換する」という意味を持たせるようにしました。

当初は時間を決めて誘導していましたが、
少しずつ、
「今、交換したいかどうか」を
Aさん自身が選べるような関わり方へと変えていきました。

その結果、リハビリパンツやパットを見ると、
自分からトイレへ向かう様子が見られるようになっていきました。

写真カードを使って、気持ちを伝える方法

Aさんは、お茶や輪ゴムなど、好きなものがはっきりしています。
言葉での要求が難しいため、
写真カードを使い、指差しで気持ちを伝えてもらう方法を取り入れました。

はじめのうちは、思うように伝わらない場面もありましたが、
少しずつ「指差しをすると伝わる」という経験を重ねていく中で、
Aさん自身が安心して意思表示できているように感じられる場面が増えていきました。

こうした「伝わった」という積み重ねが、
Aさんにとっての安心感や信頼につながっていったのだと思います。

排泄記録を続ける中で見えてきたこと

水分摂取量が多いAさんは、排尿量も多くなりやすい傾向がありました。
そこで、排泄の様子や時間帯を記録し、
一日の排尿・排便の流れを把握するようにしました。

記録を続けていく中で、
「この時間帯はトイレに行きやすい」
「このタイミングで声をかけると落ち着きやすい」
といった、Aさんなりのリズムが少しずつ見えてきました。

排泄記録は、それまで感覚に頼っていた支援を、
状況に合わせて考えられる、根拠のある関わりへと導いてくれました。

 

夜間支援の中で検討した「つなぎ服」という対応

Aさんは夜間に眠りにつきにくく、
居室内で排泄してしまうことが続く時期がありました。

当時の居室は複数人部屋であったため、
Aさんご本人の衛生面に加え、
他の利用者さんへの影響についても配慮が必要な状況でした。

支援員間やご家族と何度も話し合いを重ね、
緊急性と安全面を最優先に考えた結果、
お父さまの同意を得たうえで、
夜間と生理期間中に限り、市販のつなぎ服(オーバーオール)を使用することになりました。

この対応は、行動を制限することを目的としたものではなく、
Aさんの尊厳と安全を守るために慎重に検討した、やむを得ない選択でした。

 

支援の中で「難しい」と感じてしまう瞬間

支援を続けていく中で、
思うような変化が見えず、気持ちが揺らぐ瞬間も何度かありました。

長い時間関わっていても同じ行動が続くと、
「これ以上の変化は難しいのかもしれない」と感じてしまうこともあります。

それでも支援を続けてこられたのは、
Aさんが日々の関わりの中で、
少しずつ状況を感じ取り、受け止めているように思える場面があったからでした。

 

支援を続ける中で大切にしていた3つの視点

① 本人の尊厳を損なっていないか

どのような支援を行う場合でも、
まず「Aさんの尊厳を損なっていないか」という視点を大切にしていました。

支援のしやすさだけを優先してしまうと、
知らないうちに本人の気持ちを置き去りにしてしまうことがあります。
そうならないよう、関わり方を振り返る時間を意識的に持つようにしていました。

② 環境が行動を難しくしていないか

行動そのものだけを見るのではなく、
「環境や関わり方が、行動を難しくしていないか」という点も意識していました。

音や人の動き、タイミングなど、
本人では変えられない要因が影響していることも少なくありません。
そのため、環境を整えることで負担を減らせないかを、常に考えるようにしていました。

③ 支援員の都合だけになっていないか

忙しい業務の中では、
知らず知らずのうちに「支援員の都合」が優先されてしまうこともあります。

だからこそ、
今の関わり方は本当にAさんのためになっているのか、
定期的に立ち止まって振り返るよう心がけていました。

 

少しずつ感じられるようになった、Aさんの変化

ある時期から、Aさんは
パットが濡れると不快に感じる様子を見せ、
自分からトイレへ向かう場面が増えていきました。

トイレに座ることができたときには、
拍手をしたり、笑顔で気持ちを伝えたりと、
「できた」という経験を一緒に喜ぶようにしていました。

そうした関わりを重ねる中で、
Aさんの表情や落ち着きに、少しずつ変化が感じられるようになりました。

8年という時間をかけて、支援から学んだこと

失禁せずにトイレで排尿できる場面は、
少しずつではありますが、確実に増えていきました。

また、パットの処理や日中用パットの装着なども、
支援を受けながら自分で行える場面が増えていきました。

時間をかけて関わり続けることで、
その人なりのペースで変化が積み重なっていくことを、
この支援を通して改めて実感しています。

 

排泄支援をきっかけに広がっていった「できること」

排泄の場面だけでなく、
ゴミ出しや洗濯物運びなど、日常の中での小さなお手伝いも増えていきました。

ある日、私の靴を揃えて待っていてくれた姿を見たとき、
言葉でのやり取りはなくても、
気持ちはしっかり伝わっているのだと感じました。

 

まとめ:支援は、信じて関わり続けた時間が支えになる

支援は、すぐに目に見える結果が出るものではありません。

それでも、諦めずに関わり続けることで、
年齢に関係なく、その人なりの変化が積み重なっていくこともあります。

Aさんとの歩みは、
支援とは何か、この仕事の意味を、
私自身に改めて考えさせてくれるものでした。

 

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